SSブログ

雪解け進む尾瀬ヶ原【2】 [尾瀬ケ原]

25.jpg
【朝陽に染まる残雪の上田代】

 自分以外に宿泊者もなく,見晴地区でもう一つ開いている檜枝岐小屋にも数名の宿泊客しかいないため,静寂そのものだった尾瀬。春スキー客で賑わう山の鼻地区とは違い,尾瀬を満喫するには十分すぎるくらいだった。下田代の雪解けは尾瀬ケ原の中では比較的遅いほうであるため,この周辺では被写体探しに苦労するので朝弁当を頼んでおいて早めに小屋を後にした。雲一つない青紫の空に浮かぶ大きな月を見ながら中田代に向かう。

10.jpg
【モルゲンロートに輝く至仏山】

 ライトこそいらない明るさだが,誰一人歩いていないし,鳥のさえずりが聞こえるようになるまでにはまだ少し早い季節である。聞こえるのは,堅い残雪を踏みしめる自分の足音だけだ。放射冷却で冷え切った湿原の雪は良く締まり,アイゼンがよく効く。

15.jpg
【朝の光がやっと自分のいるところまで届きました】

 真ん丸の月が低くなるにつれ,ビーナスの帯がゆっくりと降りてきて,至仏山頂に赤い火が灯る。山頂に点火された火はみるみると山裾に向かってその範囲を広げる。気持ちも焦り,急ぎ足になるがなかなか良さそうな場所が見つからない。そうこうしているうちに朝の光が周囲を包み込む。ほどよい場所を見つけて,慌ただしく荷物を下ろして撮影準備に取りかかり,待ちかねたドローンを離陸させた。

20.jpg
【上田代上空から見る日の出】

60.jpg
【拠水林の中にも朝の光が届きます】

 上空から見る朝陽に染まる残雪の尾瀬ヶ原。今年は明らかに例年よりも雪解けは早く,池塘や雪原も多彩な表情を見せている。特に池塘はその水温の違いが影響しているのか溶け方も様々だ。単に真っ白な雪原だとやや面白みに欠けるが,これくらい変化があると楽しい。ついつい興味が先走り,動画を撮影していることを忘れて操作してしまうことも。

70.jpg
【残雪が溶け芽吹きが始まったばかりですが遅霜で真っ白に】

80.jpg
【やはりまだ早春。冬がちょっぴり同居しているんですね】

90.jpg
【早めに顔を出したミズバショウの苞も茶色に変わってしまいそうです】

 陽が昇ると,地上でもあちこちでドラマが繰り広げられている。放射冷却で相当冷え込み気温は-5℃。春を待ちかねて早々に地上に現したミズバショウの花や灌木を縁取る霜が朝陽を受けてきらきらと輝き出す。ドローンでの撮影をしながらもこうした宝石のように煌めく一瞬も記録しておきたくて,コンデジでの撮影も並行して行う。慌ただしく時が過ぎ,日差しに暖かさが戻り,何事もなかったかのようにいつもの光景に戻っていく。

110.jpg
【日が高くなると急激に温度が上がり,雪解けも進みます】

 撮影も一段落してから,昨日は人影もなかった龍宮小屋に立ち寄る。入り口の戸を開けると中から懐かしい顔が出迎えてくれた。小屋主さんは所用で今日上山してくるそうだ。帰る途中,何処かで会えるかも・・・

130.jpg
【上田代の雪解けも急ピッチで進んでいます】

龍宮小屋を後にして山の鼻に向かうが誰一人とも会うこともなかった。本当に人がいないのか,広い尾瀬ヶ原のあちこちに分散しているのか,時間が早いからなのか? とにかくこの時期の入山者の目当ては春スキーと百名山の景鶴山登山の人が大多数なのかも知れない。

135.jpg
【下の池塘は,微生物のミドリムシのようにも見えます】

 ゆっくり残雪の反射する光溢れる,雲一つない尾瀬ヶ原を散策したり,ドローンでの撮影をしながら山の鼻に向かっていたら声をかける人がいた。誰だろうと思っていたら龍宮小屋の小屋主さんだった。1年ぶりの再会だったので,その場で暫く談笑して別れた。今年は限定的ながらも営業してくれるのはありがたい。
最後はバテバテになりながら鳩待峠に着く。西日に銀色に輝く至仏山の雪面には,スキーヤーのシュプールが多数刻まれていた。

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです。

140.jpg
【至仏山に刻まれたシュプール。これも春の風物詩だろう】
nice!(17)  コメント(2)