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春の息吹きの中で【3】 [尾瀬沼]

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【尾瀬沼に浮かぶ夏の星座】

■6月11日(晴れ)
今夜は新月。天候さえ許せば絶好の星景写真撮影日和だ。尾瀬沼は尾瀬ヶ原に比べて夜霧や朝靄も出にくいので星の撮影には都合がいい。深夜にふと目が覚めて窓の外を確認すると,雲一つない満天の星空が広がっていた。

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【明ける大江湿原。尾瀬沼の朝靄が立ちこめている時間はそれほど長くありません】

昨夜は星の撮影を諦めていたので,条件の揃ったこの日は寝るわけにいかない。小屋の周りをカメラを担いで歩き回り,所々で撮影を繰り返す。尾瀬沼の南側には,なだらかな皿伏山しかないため,低い位置にある蠍座もしっかり撮影できた。短い時間で引き上げるつもりでいたが,熊よけにつけたラジオを聞きながら1時間ほど撮影を続けて部屋に戻った。

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【朝陽に染まる尾瀬沼】

日中の気温は高いとはいえ,やはり夜は相当冷え込んで体も冷えたせいか,布団に入って温まると直ぐに眠ってしまった。
寝過ごさなければいいけどと思いながらも目覚ましを設定する前に眠りについてしまったようで,気付いた時には既にライトがいらないくらいに明るくなっていた。「やばい・・」

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【朝日を浴びる三本カラマツ】

必要な機材だけを詰め込んだリュックを担いで小屋を出る頃は,燧ヶ岳の山頂は朝陽を浴びて赤く染まっていた。大江湿原には僅かだが朝靄が漂い,初夏の朝らしい爽やかな光景を見せていた。まず,小屋の周りを簡単に撮影してから,ドローンで撮影を始めた。

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【陽が当たると僅かについていたしもが溶け出し,輝く】

朝靄もまだ消えずに残ってはいるものの,尾瀬沼周辺の朝靄は薄く控えめで,上空からではそれほどの存在感はない。上空からは,遠く至仏山や景鶴山も見ることが出来る。季節や時間が変わると見えてくるものや撮りたいものが毎回変わってくる。今まで気付かなかったものを見つけては驚き,心躍らせながらも撮影を進める。手を変え品を変え,同じような場所をあてもなく何度も飛び回る。だから,できあがった写真や動画はいつも行き当たりばったりになってしまうのだが・・・。

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【僅かに霜が付いたコバイケイソウの葉】

そして,朝陽が大江湿原にもやっと届くと,その光は真っ先に三本カラマツを照らし出す。スポットライトを浴びた舞台女優のように,凜と立つ大江湿原のシンボルを浮かび上がらせる。朝靄でしっとりと濡れたカラマツの葉がきらきらと煌めき,そして輝く。その儚くも美しい瞬間を夢中で記録した。

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【ヤマドリゼンマイも朝露に濡れ,生き生きとしていた】

気付くと大江湿原を包んでいた朝靄はいつの間にか消え去り,眩しい光が辺りを照らしていた。ドローンでの撮影を一旦休止して,眩く輝く湿原の表情を切り取る。ドローンを飛ばすことに夢中で見逃していたが,木道や湿原には僅かに霜が降り,小さな花やコバイケイソウは白く縁取られていた。しかし,それも束の間,朝陽を浴びた場所から,その僅かな霜が溶けて朝露をとなって輝く。一本一本の草までもが美しく,そして儚い。一期一会の貴重なこの瞬間が消えてしまう前に記録しなくては・・・ 

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【この時期としては大変珍しく,3日間晴れてくれました】

時間も忘れて夢中で撮影していると,いつの間にか朝食の時間になってしまったので急いで小屋に戻る。食事を済ませ,朝のコーヒーで一服。朝の撮影をすませた後の至福の時。このまったりとした時間がたまらなく好きだ。
荷物を纏めて小屋を出発する頃には,太陽は高く,空はからっと晴れ渡っていた。今日も天気は良さそうだ。梅雨入り前のこの3日間,奇跡的に晴れてくれたことに感謝したい。思うような撮影もできたし,久しぶりに山小屋でゆっくりすることもできた。三平峠を越え,賑やかなハルゼミの声を聞きながら,のんびりと大清水に戻った。

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです

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【不明です。どなたかご存知でしたら宜しくお願いします・・・】
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春の息吹きの中で【2】 [尾瀬ケ原]

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【上空から見る白虹。ドローンの影を中心にそれを取り囲む大きな白い虹ができる】

6月10日(晴れ)
明日は新月なので月に邪魔されることもなく星の撮影ができるかなと期待していたが,夜半には,いつものように夜霧が発生して龍宮小屋周辺は,ほとんど真っ白になった。星の撮影は明日の楽しみにとっておくことにして,朝靄の尾瀬ヶ原の撮影に備えてその夜は寝ることにした。

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【雲海に浮かぶ燧ヶ岳】

目が覚める頃になっても,まだ小屋の周囲は真っ白な霧に覆われていた。必要な荷物だけを持って小屋から出るには出たが,霧に覆われ周りの様子は全く分からない。そろそろ至仏山頂が朝陽に染まる頃である。空撮後の撮影も考慮して撮影場所を移動する。

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【朝の湿り気を帯びた空気をすり抜けて朝の光が湿原に届く】

長時間,霧に覆われていたせいか,木道がしっとりと湿り,場所によっては霜が降りているところもある。暫く歩いても朝靄の状態は変わらないが,目的のベンチにザックを置いてライブカメラを確認すると,予想通り,至仏山は朝陽を浴びて赤く染まっていた。急いでドローンを離陸させた。あっという間に朝靄の上空に出ると彼方には,モルゲンロートに染まる至仏山の姿があった。

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【沼尻の池塘群と尾瀬沼。上空の雲がすっかり夏のよう・・・】

湿原は真っ白な朝靄に覆われ眠りのさなかだが,上空では既に朝の劇的なドラマが繰り広げられていた。朝の光を受けて朝靄は慌ただしく動き,大きくうねり尾瀬ヶ原を行き来する。そのうねりが大きなスクリーンとなって太陽の光を映す時,地上では白い虹となって目の前に姿を現す。地上では視点となる者の影を中心に上半分の半円を描くが,上空ではその朝靄の分布や高度によって下半分の半円や,ドローンの影を中心とする大きな円となる。

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【初夏の光溢れる沼尻平】

そんな幻想的な朝靄の尾瀬ヶ原の上空を飛ぶドローンから送られてくる映像を見,僅かな時間をとらえては,時々カメラを構えて目の前の光景を記録する。
しかし,どうしても気になる・・・。下の大堀や龍宮付近にも昨年から本格的なシカの防護ネットが張られたが,これが,写真を撮る者にとって非常に目障りな場所に所構わず張られている。シカの食害から花を守れるのは良いことだが,花をひっくるめた風景の撮影を楽しみにしている者にとっては堪らない。花あっての尾瀬,尾瀬あっての花である。ここまで風景に入り込んでしまっては,景観破壊行為の何物でもない。もっと邪魔にならない樹林帯寄りに張ることは出来るはずである。

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【展望デッキからみるミネザクラと燧ヶ岳】

尾瀬ヶ原での撮影を終え,朝露に濡れ逆光に輝く湿原を眺めながら小屋に戻り,朝食をとる。2年ぶりの龍宮小屋のモーニングコーヒーをのんびりといただいてから尾瀬沼を目指す。当初はトガクシショウマや三条の滝を見て,尾瀬沼に向かうつもりでいたが,体調や時間を考慮して,通常のルートで尾瀬沼に向かった。

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【まだ見頃のミネザクラもたくさん残っていた】

すっかり日差しが強く,森の中を歩くルートは本当に心地良い。時々現れる渓流で火照った体を冷やしたりしながら白砂峠を越えると,林内に新鮮なムラサキヤシオツツジが多く見られるようになる。所々に残雪も見られるようになり,周囲には小ぶりなミズバショウが咲いていた。少し標高が高い分,花の見頃も,全体的に尾瀬ケ原より遅れている感じだ。

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【尾瀬沼の夕暮れ】

沼尻の休憩所で昼食後に空撮し,長蔵小屋に向かう。尾瀬沼周辺の山小屋は今年はコロナ等の影響で,どこも営業を再開してから10日ほどしかたっていないせいか,人影もまばらで静かな昔ながらの尾瀬を満喫した。宿泊先である長蔵小屋のこの日の宿泊者は3名しかなく,個室でゆっくり骨休めすることができた。食事を済ませた後,のんびりと散策の時間がとれるのは,日の長いこの時期ならでは。徐々に傾く夕陽に照らされるミズバショウを撮影して,静かな山小屋に戻り,早めに休んだ。

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです

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【夕陽を浴びて輝くカマッポリ湿原のミズバショウ】
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春の息吹きの中で【1】 [尾瀬ケ原]

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【紫外線も強くなり,新緑で覆われた森の木陰が恋しくなります】

6月9日(晴れ)
この時期の変化は急速で,1週間も違うと風景も咲いている花も大きく変わってしまう。特に,今年は例年以上に季節の到来が早いため,残雪の時期も花が見頃を迎えている期間も明らかに短いように感じる。

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【徐々に湿原にも緑に染まっていきます。空を写す池塘が涼しそうです】

コロナ禍で昨シーズンがスタートしたのは実質7月末だったから,ミズバショウもニッコウキスゲのシーズンも見逃し,今年こそ何とかその名残りや片鱗だけでも見ておきたいと思いがあった。コロコロ変わる天気予報に翻弄されながらも梅雨入り前の貴重な晴れの日を選んで急遽出かけた。

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【新緑も樹木や芽吹いた時期によって微妙に色が異なり,多彩なグラデーションが楽しめます】

今回は昨年営業を休止していた龍宮小屋と水道がやっと復旧し営業を再開したばかりの長蔵小屋に泊まることにした。体力が落ちている上,前回の尾瀬歩きで膝を痛めてしまって無理も出来ないのでそこを結ぶオーソドックスなルートをゆったりと歩こうと思う。

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【ダケカンバの新緑は特に目を引きます】

第一駐車場で待機していたバスに乗り込むがほぼ満員の状況だ。皆,好天につられて出てきたのだろうか? 平日だというのに,こんなに混雑しているとは予想外だったが,鳩待峠に着くとほとんど人もなく閑散としていた。

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【さてこれは何だと思いますか? こんな形をしているとは知りませんでした】

堆く積もっていた残雪もいつの間にかすっかり消え,爽やかな青空を背景に眩しく輝く鮮やかな新緑が印象的な鳩待峠でゆっくり準備を整えてから歩き始めた。
森に入ると前回はほとんど聞かれなかった多くの鳥の囀りがあちこちで聞こえ出した。渓流沿いではハルゼミ,湿原や池塘周りではカエルの声が森の中に響く。森がそしてそこに住む生き物たちが短い春をめいっぱい謳歌している様子を目で耳で,そして肌で感じることが出来た。春を待ちかねた尾瀬の命が激しく躍動していた。

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【平滑の滝を上空から】

いつもなら,ミズバショウはシーズン終盤を迎える頃なのだろうけれど,今年の場合は,一番遅いと思われる研究見本園のミズバショウの群落地でさえ,ほとんど見頃を過ぎていた。しかし,それにしてもこれは酷い・・・。ミツガシワやキスゲをシカの食害から守るために設置された柵が景観を台無しにしていた。設置する場所は他にいくらでもあるというのに,よりによってミズバショウの群落地のど真ん中に,嫌がらせをするかのように設置する必要があるのだろうか? もっと周辺部に移動してほしいものだ。

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【透過光で見る森の中の新緑。ほっとできるひとときです】

ミネザクラやミズバショウ,ショウジョウバカマ等の見頃は過ぎ,ムラサキヤシオやシラネアオイ,タテヤマリンドウがあちこちで存在感を示していた。ズミやコバイケイソウ,レンゲツツジの花,たくさんあったワタスゲの果穂も白く大きくなりつつあり,間もなく風に揺らめく姿を見せてくれるに違いない。

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【至仏山頂付近にかかった雲が,夕陽に照らされて綺麗に染まりました】

小屋に向かう途中で,下山する龍宮小屋の小屋主さんや尾瀬仲間と偶然遭遇し,長々と歓談できたのも嬉しかった。時間的に余裕があったので東電小屋・見晴を経由してから龍宮小屋に向かった。この日の宿泊者は4人。夕食後にカメラを持ってベンチに腰を下ろし,黄昏れていく尾瀬ケ原の様子をのんびりと眺めた。贅沢な時間が流れた。

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです。
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