SSブログ

晩秋の尾瀬ヶ原を歩く【2】 [尾瀬ケ原]

10.jpg
【一面の大霜に覆われた尾瀬ヶ原】

10月25日(月)(晴れのちくもり)

昨夜は満月を少し過ぎたばかりなので,月が煌々と湿原を照らしていたが,無理に起きだして撮影するほどでもないと判断してその夜の撮影は見送った。
目が覚めたのが4時30分を回った頃。消灯で暗くなった部屋でライトを頼りに出発準備を進める。朝弁当と一緒に出していただいたお茶を一口飲んで小屋を後にする。

20.jpg
【徐々にモルゲンロートに染まる至仏山】

周囲を見渡せば,雲はほとんどなく,既にライトはいらないくらいに明るい。木道や湿原はかなりの量の霜が降り真っ白だ。拠水林も大きなカラマツも葉っぱの先までまで真っ白になっている。今朝は疑いようもないくらい完璧な大霜だ・・・。

30.jpg
【寺ヶ崎付近から顔を出す太陽と大霜に輝く樹氷】

こんな願ってもない好条件を目前にして気持ちは焦る。太陽が昇る前の大霜の湿原,夜明け前の静まりかえった湿原の様子を何とかカメラに収めたい。それに,ドローンでの撮影を考えると龍宮小屋までは行かないと・・・ 急に慌ただしくなるが,時間ばかりがどんどん過ぎていく。

40.jpg
【神は細部に宿る・・・】

何処にカメラを向けても,絵になるから困る。カメラを変え,切り取り方を変え,露出を変え,あれこれ試しながら何枚も何枚も撮影する。すると,至仏山頂が赤くなり始めた。時間とともにその赤い光は至仏山の麓に向かって降りていく。

50.jpg
【無風快晴の朝。至仏山が綺麗に逆さまに見えていた】

しかし,その光が突然消えた。東の空に朝日を遮る雲があるのか・・・。上空を見上げると薄い雲が上空に進出していた。せめてもう少し,この幻想的な光景を見せてくれ・・・と心の中で願わずにはいられなかった。
至仏山を照らす朝陽は気まぐれだが,その光は徐々に降りてきて湿原に届こうとしていた。

60.jpg
【大霜に包まれた龍宮小屋】

急いで空撮の準備をして,急いでドローンを空へ飛ばす。昨日見た,茶色の湿原は大霜で覆われ,パステルカラーの柔らかな色に塗り替えられていた。すっかり葉を落とした拠水林の枝は真っ白になり,作り物のクリスマスツリーのようだ。黄葉が見頃を迎えていたカラマツの先端まで白い粉雪を振りかけられたようである。
何という光景・・・。大霜の湿原は美しいがやはり光があるのとないのとでは大違いだ。

70.jpg
【大霜に包まれた朝の尾瀬ヶ原】

しかし,美しい瞬間は長くは続かない。この光は大霜に覆われた湿原を美しく見せるのと同時に,美しさを損ねる大敵なのだ。この温かい光に当たることで大霜はみるみる溶けて,いつものありきたりな光景に変わってしまうのだ。
しかし,夢中で空撮していて気が付かなかったが,バッテリー2本分の空撮を終える頃には,上空を薄い雲が支配し,ほとんど朝陽は射さなくなっていた。

80.jpg
【大霜の朝,煌めき輝きを増す森】

撮影も一段落したので,ちょっと一息ついてベンチに腰掛け,朝弁当を食べていたが,時間が経っても状況が好転することはなかった。ただ,日差しがなかった分,大霜が溶けるスピードが遅くなり,長い時間大霜の湿原を見ることができたのも,ある意味幸運なのかも知れない。
昼前には曇る予報だったが,天気の崩れが予想よりも早まったのだろう・・・。 この大霜を長時間見ることができただけでも大収穫である。
湿原を歩く人は時間とともに増えていったが,その日はもうほとんど撮影することもなく,鳩待峠に向かった。

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです。

100.jpg
【荘厳な朝の幕開け】
nice!(22)  コメント(2) 

晩秋の尾瀬ヶ原を歩く【1】 [尾瀬ケ原]

10.jpg
【朝早く雪降る鳩待峠を出発します】

10月24日(日)(雪のち晴れ)
最盛期の紅葉が見たくて出かけたのが先週だったが,僅か4日後の尾瀬沼や尾瀬ヶ原には初雪が降った。本格的な大霜や新雪が見られるのはもう少し先かなと思っていたが,例年よりも冷え込むのが早いようだ。
10月ともなれば,紅葉の情報に混じって,初霜・初氷・初雪などのニュースが届けられ,一喜一憂していたのだが,温暖化とともに,冬の訪れは年々遅くなる一方,尾瀬の山小屋の小屋締めも早まり,シーズン中に尾瀬ヶ原や尾瀬沼の雪景色を見る機会は年々少なくなっていた。やはり,新雪に覆われた尾瀬を見たい,贅沢を言わせてもらえば,紅葉と新雪のコラボが見れたら完璧なんだが・・・。

20.jpg
【雪はそれほど積もっておらず,日陰などに僅かに前日の雪が残るのみでした】

これも温暖化の影響なのか,このところ,夏が終わるといきなり寒くなり,秋が短くなったように感じる。今年も暑い夏が終わったと思ったら,一気に寒さが来た。秋の準備が整っていないところに,急に寒気がやって来て自然も戸惑っていることだろう。
突然,ライブカメラやSNSで見る真っ白に雪化粧した至仏山がモルゲンロートに染まる光景は,美しく神秘的であった。天気が崩れるとは思ったが,ここまで雪が降るとは予想できなかったから,この状況を知った時は,その光景の中に自分がいないことが悔やまれた。
この雪は数時間後にはほとんど消えてしまったが,この先,できれば紅葉の残る早い時期に雪が降ったらすぐにでも出かけたいとの思いを強くした。待つこと数日。その願いをかなえてくれるかのような予報が出た。これは行くしかない・・・。冬用タイヤに交換し,その日を待った。

30.jpg
【徐々に青空が広がり,至仏山も山頂が見えてきました】

予報通り,尾瀬に雪が降り始めた。しかし,降り過ぎると通行止めになる事もあるのでその前に駐車場に着かなくては。金精峠を越えると一気に雪景色だ。道路脇に佇むシカの群れに何度もドキッとさせられながらも,何とか新雪で真っ白になった鳩待峠駐車場に到着。僅か10台ほどの車が止まっていた。エンジンを止め,シュラフに潜る。静まりかえった暗闇で風がうなり,車を揺らす・・・

40.jpg
【晩秋の尾瀬ヶ原・上田代。湿原に雪が殆どないのはやはり残念】

明け方近くになると,この雪を知ってか知らずか次々と車が入ってくる。外は相変わらず風が強い上,雪もまだ降り続いているようだ,しかし,いつまでもこうしていられないので準備をして,山の鼻に向かう。
林内は風もほとんどなく,風に飛ばされてしまったのか積雪も思ったほどではない。霧も立ち込め,幻想的な森を歩くのは心地良い。ただ,雨に濡れ,うっすらと雪が積もり滑りやすくなった木道は一瞬でも気を抜くと大怪我に繋がりかねない。滑り止めを付け慎重に登山道を下り山の鼻に着いたが,営業している山の鼻小屋を除いてはすっかり雪囲いで覆われ,静かな時間が流れていた。

50.jpg
【青空を映す池塘と降ったばかりの雪を僅かに残す湿原】

雪はやんだものの,青空さえ見えない。徐々に回復するとの予報ではあるが,燧ヶ岳と至仏山の山頂も雲に隠れたままだ。期待していた雪も殆ど溶けてしまい,日陰に僅かに残るのみである。救いは周囲の山々に真っ白く残り,終わりかけの紅葉とともに晩秋の光景を見せてくれていたことだ。この雪が溶けてしまわないように,写真を撮りながら先を急ぐことにする。

60.jpg
【紅葉の山々と新雪のコラボは心が洗われます】

牛首分岐あたりに着く頃には,青空が広がり,至仏山や燧ヶ岳の真っ白な頂もその姿を現してくれた。ここぞとばかりに空撮を始め,上空から雪の状態を確認するが,殆ど雪が残っている場所はなく,思い描いていたような光景を上空からは見ることができなかった。
しかし,周囲の山は何もない晩秋の尾瀬とは違い,僅かに残る降ったばかりの雪の白,まだ何とか見頃のブナの紅葉,針葉樹の緑。所謂「三段紅葉」の色合いに染まり色鮮やかだ。そこにスポットライトが射し込み,見事な光景を造り上げていた。

70.jpg
【紅葉の森と新雪の森。季節は確実に進んでいきます・・・】

「東電下の大堀橋」と「ヨッピ吊り橋」は既に橋板が取り外され,橋桁のみになっているが,ここを慎重に渡り東電小屋に向かう。この日ヨシッ掘田代で会った人は僅か2名。ほぼ貸し切りだ。なんて贅沢な・・・ 殆ど人が行き交うことのない道を辿って見晴へ。今日宿泊する「燧小屋」以外はこの日で営業を全て終えるが,檜枝岐小屋の喫茶コーナーは幸い営業していたので,いつもの野菜の素揚げ入りカレーを注文した。

80.jpg
【景鶴山と紅葉の森。今年はまだまだ紅葉も見られます】

昼食後,早めに燧小屋で受付を済ませ,荷物を置いて周辺をぶらぶらする。夕食まではまだたっぷり時間があるので,小屋締めができたのか気になっていた龍宮小屋に向かった。龍宮小屋では澄夫さんたち3人が,「今日やっとヘリが飛んだので下山できる」と最後の点検をしていた。直ぐにでも下山できそうだったが,思いの外,時間もかかっていたので,最後の点検をする皆を尻目に見晴に戻る。

90.jpg
【いわゆる「三段紅葉」が美しい・・・】

尾瀬全体で唯一空いているのがこの燧小屋だけになったので,混雑しているのかなと思ったが,宿泊客は全部で12名ほど。その中には見晴休憩所等の閉所作業に当たるKさんもいた。久しぶりに会い少し談笑することができた。マイタケ御飯で夕食を済ませ,のんびりと風呂に浸かり,暖かい布団でゆっくりと休んだ。やっぱり車中泊とは比べものにならない。昨日の分までゆっくり休んだ。

100.jpg
【こんな寒い時期なのに,今頃,龍宮小屋で咲いていたアケボノソウ】

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです。
nice!(18)  コメント(0) 

秋は夕ぐれ・・・ 【2】 [尾瀬ケ原]

10.jpg
【夕霧漂う湿原に沈む上弦の月とひときわ輝く木星】

10月15日(金)(快晴)
月没時刻が午後11時30分前後である事を確認し,アラームをセットして一眠りした。アラームに起こされて小屋から窓の外を確認すると夜霧にうっすらと浮かぶ至仏山の直ぐ上に月が輝いていた。撮影をしようとカメラを持って小屋から出る頃には,明るさが少しずつ失われ,月の赤みが増していくところだった。急いでカメラをセットして数枚撮影した。数分後には霧に霞んだ至仏山の右肩に沈んでいった。月が沈んだその後にはぼんやりとした余韻と満天の星空が残された。遠くの池塘には月の撮影をしていたと思われる明かりが点滅していた。たぶんMさんだろう・・・。この夜の主役はやはり月。星の撮影もそこそこに切り上げて部屋に戻った。

20.jpg
【朝靄に浮かぶ燧ヶ岳から登る朝日】

モルゲンロートが始まるのはこの時期になると5時30分前後と真夏の頃に比べ,1時間以上遅くなる。木道の資材の置かれていないヨッピ方面に向かうことを考えて,4時30分に起き出し,5時には小屋を出る。玄関先にはMさんのスリッパが並べて置いてあった。見習わなくては・・・。

30.jpg
【モルゲンロートの尾瀬ヶ原】

小屋を出ると周囲は朝靄に包まれているが,上空には青空が広がる。クマとの遭遇による事故防止のため木道の周りの草は刈られていて朝露に足下がビショビショにならずに済むのはありがたい。ヨッピ橋に向かうとだんだんと東の空は明るくなるが,朝靄が濃く,ビーナスの帯や朝の濃紺からオレンジ色に変わるあの独特の色合いの変化を見ることができないのは寂しい。

40.jpg
【龍宮小屋前に出現した白い虹】

朝陽が至仏山を赤く染め始める時間になっても一向に朝靄が晴れる気配はない。何とかつながる携帯でライブカメラを確認すると,至仏山の周囲には雲はなさそうだ。これなら,上空に出れば間違いなく至仏山や燧ヶ岳が見えるはずだと思い,真っ白な湿原からドローンを上空に飛ばす。あっという間に朝靄を飛び越え,上空に広がる至仏山や燧ヶ岳が織りなす光景がモニタに映し出された。時間とともに赤い光が照らす範囲は広がるが,見える景色に大きな変化はない。

50.jpg
【上空から見た白虹。靄や霧が朝靄の上空にもあれば円になるのだが・・・】

光が湿原を照らす時間になると,朝靄も急激に動き始め,樹林帯から登る太陽がだんだんはっきり見えるようになる。この光があれば・・・ と太陽の反対側に目をやると,湿原の池塘の上にうっすらと待望の白い虹が架かる。今回はこの白虹と最盛期の紅葉が見たかったので,上空で地上で夢中でこの白虹をカメラに記録する。
撮影に没頭していると時間を忘れてしまうが,朝食の時間はとっくに過ぎていた。

60.jpg
【東電尾瀬橋付近の只見川周りの紅葉】

小走りで小屋に戻り,朝食を食べていると小屋の前には小屋主さんを始め,宿泊客が何人か集まっている。見ると,この日一番はっきりした白い虹が,小屋の前に架かっている。しかもこんな時間に。急いで朝食を済ませ,カメラを持って外に出るが,その時もまだ白い虹は見えていた。この周辺はやはり条件的に白い虹が見やすい場所である事を実感した。その後は急速に朝靄が移動し,雲一つない秋空が昨日に引き続き広がった。

70.jpg
【華やかだった尾瀬の紅葉も終盤戦】

龍宮小屋での今年最後のドリップコーヒーをじっくり味わいながら小屋主さんと談笑し,今年のお礼を言って龍宮小屋を後にする。
時間もあるし,天気も良いので尾瀬ヶ原をぐるりと回ろうと思い,見晴に向かう。今週末で今年の営業を終える山小屋が多く,既にいくつかの山小屋の周囲は雪囲いで囲まれ,間もなくシーズンが終わることを嫌が上にも感じさせていた。
東電小屋のヨシッポリ田代,只見川の拠水林の紅葉はややピークを過ぎてはいたが,最後の華やかな姿で出迎えてくれた。この日も相変わらず一日中雲のない天候で撮影には困ったが,紅葉に染まる尾瀬ヶ原の様子をスナップし,ドローンで空撮しては鳩待峠に向かった。

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです。

80.jpg
【ヨシッポリ田代付近から見た紅葉の尾瀬ヶ原と拠水林】
nice!(14)  コメント(0) 

秋は夕ぐれ・・・ 【1】 [尾瀬ケ原]

10.jpg
【山の鼻に続く道の紅葉は終盤。落ち葉も目立ちその分,森が明るくなった】

10月14日(木)(快晴)
10月になると紅葉の色付き具合とともに気になるのが,山小屋や道路の開設状況だ。特に今年はコロナの影響もあり,営業形態が変則的だったので,いつもと同じように営業するのか,道路はいつまで通行可能なのか気になっていた。

15.jpg
【テンマ沢周辺のもみじの紅葉。グラデーションが鮮やかでした】

やはり今年は宿泊客や登山者が増えつつあるとはいえ,早々に営業を終えてしまう山小屋が多いようだ。何度もお世話になった龍宮小屋もいつもより早く16日には小屋を閉めるという。尾瀬仲間も数名宿泊するというので,最終日に予約を入れ,その日を待つことにした。しかし,宿泊日はどうも天気予報がよくない。時間をかけて出かけていって撮影も思うようにできないのはやはり悲しい・・・。

20.jpg
【陰り行く上田代】

できるなら最終日の予約を取り消して,少しでも天気の良さそうな前々日に泊まれないものか・・・。急いで荷物をザックに詰め込んで家を出た。テレビや新聞で日光の紅葉も見頃だと伝えられていたため,いろは坂の渋滞も十分予想できた。もし,渋滞に巻き込まれることなく戸倉に着けたら山小屋に電話を入れよう・・・。幸い,いつもの渋滞もなく,中禅寺湖,戦場ヶ原,そして戸倉に順調に到着し,その日の宿泊予約と最終日のキャンセルをお願いした。

40.jpg
【徐々に日が傾き,至仏山の大きな影が尾瀬ヶ原を呑み込んでいきます】

バタバタと準備をして,大急ぎで尾瀬に向かったが,結局鳩待峠到着が午後2時30分。のんびり撮影している時間などあるはずもなく,ここでも慌ただしく山の鼻への道を駆け下りた。スナップ程度の写真を撮りながら・・・。前回の尾瀬から既に8日たっているが,あの時まだ早いと感じたダケカンバの紅葉は既にピークを過ぎて散り始め,森は隙間だらけになった木々の間から漏れる温かい色の光で満たされていた。小鳥たちの囀りもなく,静かな森に落ち葉を踏みしめる乾いた音が響く。流石にこの時間歩く登山者も数えるほどだ。

50.jpg
【尾瀬ヶ原周辺は紅葉が見頃を迎えていた】

日帰り客は既に鳩待峠に向かっただろうし,宿泊客は山小屋で寛いでいると思われる時間帯なので,山の鼻に着いても閑散としていた。そのまま研究見本園を覗き,上田代に向かった。太陽はかなり傾き,至仏山のすぐ上で輝いている。このまま小屋に行って寝るだけでは何をしに来たのか分からないし,明日は飛ばせるかどうかも分からないので,まずドローンによる空撮を始める。日が傾き,赤い光が紅葉に染まる尾瀬ヶ原の周囲の森をさらに赤く染める。樹木や森の影が伸び,印象的な光景が広がる。しかし,あっという間に上田代は至仏山の大きな影に呑み込まれ,面白くない風景になってしまったのでドローンを回収する。のんびりしている暇はない。

60.jpg
【夕陽を浴びた紅葉の森とそれを映す池塘】

尾瀬ヶ原周辺の山々の紅葉の見頃はやや過ぎたもののまだまだ赤く色付き華やかさを残す。あちこちに点在する池塘がその紅葉の森を映し出し,一幅の絵のようである。そして目の前には真っ赤に染まる燧ヶ岳・・・。誰も歩いていない貸し切りとなった尾瀬ヶ原の道を,何度も何度も歩みを止めてはスナップを撮り,暗くなる前に龍宮小屋に着いた。

70.jpg
【赤燧ヶ岳。時間とともに赤さが際立っていきます】

一週間ぶりではあるが,あと2日で営業を終えると思うとやはり物寂しい。夕飯後,受付前でこの日宿泊していたMさんや小屋主さんと談笑をしながら,まったりとした時間を過ごした。昨日が上弦の月。月が沈む頃,撮影に繰り出すとするか・・・。

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです。

80.jpg
【龍宮十字路の付近から見る夕暮れの池塘と至仏山】
nice!(9)  コメント(2) 

色彩の競演【3】 [尾瀬ケ原]

10.jpg
【寺ヶ崎(龍宮小屋付近)に登るオリオン座】

10月6日(水)(雨のち曇り時々晴れ)
連日,早起きを繰り返すと目覚ましをセットしなくても習慣で早々に目覚めてしまう。この日も5時頃に目が覚める。天気が気になって窓を開けて空を確認すると,木道はしっとりと濡れていた。ひょっとしたら朝ぐらいまで天気がもってくれるかも知れないという淡い期待は,一瞬で潰えた。これでは外も歩けない。朝食まで寝ていよう・・・,と横になって朝食の時間までぼんやりと時間を過ごした。

20.jpg
【雨に煙る拠水林の紅葉(1)】

定時に食堂に向かう。尾瀬で撮影に追われることもなく,ゆっくりと朝食をとるのも本当に久しぶりだ。いつもならこの時間は撮影で忙しく動き回り,体がいくつあっても足りないくらいバタバタと過ごしている事が多いので,たまにはゆっくりするのもいいものだ。久しぶりの龍宮コーヒーを飲みながら次々と出発していく宿泊客を見送る。昨日から3連泊するというTさんも雨の中を尾瀬ヶ原を歩いてくると言って出かけて行った。

30.jpg
【雨に煙る拠水林の紅葉(2)】

雨の中歩き出すのはなかなか気が進まないが,雨が小降りになるのを待って龍宮小屋を後にする。一時よりも雨の勢いも弱まり,霧雨程度になったので,スナップ程度だったら撮影できそうである。
雨に霞みコントラストの低くなった山々が墨絵のように浮かんでいる。カラカラと乾いた秋風に音を立てて揺れていた木々も雨に濡れ,本来の色を取り戻しより鮮やかだ。紅葉した葉やナナカマドの赤い実の先端にはたくさん雫をつけていた。

40.jpg
【雨に煙る拠水林の紅葉(3)】

こんな日はドローンも飛ばせないが,雨に煙る湿原や低く流れていく雲を絡めて華やかな秋の尾瀬を切り取った。草紅葉から拠水林や山々に主役が移り,紅葉の見頃を迎えようとしていた。写真を撮りながらゆるゆる歩いていたら,徐々に雨も上がり,山の鼻に着く頃には青空も見えてきた。

50.jpg
【マユミの実】

この日は「尾瀬学校」が行われているようで,中学生らしい生徒が次々に山の鼻に到着してはベンチで昼食をとり,慌ただしく尾瀬ヶ原へと向かっていった。徐々に天候は回復しているが,この状態で撮影しても良さそうな写真はあまり期待できないので,ドローンでの空撮は諦めて鳩待峠に向かった。

60.jpg
【鳩待峠に向かう途中から青空の占める割合が広がってきた】

だんだん青空が広がり,そこから零れる光が赤や黄色の色合いを深める森を明るく照らす。そんな様子をベンチで休みながら眺めたりしながら峠への道を登っているとAさん,鳩待峠では再びKさんに会った。今回の尾瀬では毎日何処かで知人に会った。やはり,緊急事態宣言も解除になり,見頃となった紅葉を求めて多くの人が尾瀬に向かったのだろう。
nice!(14)  コメント(0) 

色彩の競演【2】 [尾瀬ケ原]

00.jpg
【赤田代付近の上空から見る拠水林の紅葉】

10月5日(火)(晴れ)
平日にも関わらず長蔵小屋が満館になったのには訳がある。緊急事態宣言が解除になるのにあわせて昨日から「福島県民割プラス」というキャンペーンが始まり,福島県民は実質3000円程度で泊まれるそうだ。道理で混んでいるわけだ。蜜を避けるため夕食・朝食も数回に分けてとることになっていた。ゆっくり撮影したいので,何れの食事も最後にとることにした。

30.jpg
【間もなく見頃を迎える大江湿原の森と燧ヶ岳】

雲が優勢だったが,大江湿原には少しだけ朝靄が漂っていた。上空の雲も一部で色付き始めていたが,燧ヶ岳山頂は光が当たる時間を過ぎてもなかなか紅く染まらない。日の出の位置に雲があるのだろう・・・。大江湿原では僅かにあった朝靄も急速に移動し,薄くなっていく。それを必死で追いかけ,記録に留めることを繰り返し,気付くと燧ヶ岳も漸く紅く染まり出した。朝の光が尾瀬沼を照らし始める頃,待ちかねたドローンを離陸させる。朝靄はほとんど消えかけていたが,朝の柔らかい光に染まる秋の尾瀬沼の様子を空撮できた。 ハズだった・・・・。

40.jpg
【ほとんど綿毛も飛び立ったヤナギラン】

朝食の時間を少しオーバーしてしまったので,小屋に戻って急いで食事をし,チェックアウトの準備を済ませる。出発間際,入り口付近で紀子さんを取り囲んで何やら賑やかにしていたが,いつの間にか輪の中に引き込まれ,一緒に記念撮影に加わることになった。

61.jpg
【沼尻から見た尾瀬沼。沼には多くの水草に覆われていた】

その後,大江湿原をあちこち移動し,撮影していると今度はHさんが友達とやって来た。Hさんと会うのは今年2回目だ。来るとは聞いていたがこんなに早い時間に尾瀬沼で会うとは思っていなかったのでビックリした。短い時間だが,談笑して沼尻に向かった。

70.jpg
【尾瀬沼から見た燧ヶ岳】

昨日に引き続き良い天気であるが,今日は秋らしい雲が行き来している。撮影をするには願ってもない天気だ。明日は朝から天気が悪そうだったので,この日のうちに鳩待峠まで足を伸ばして帰ってしまおうかとも考えたが,移動だけで折角の撮影の機会を無駄にするのはもったいないと思い,予定通り龍宮小屋に宿泊することにした。
見晴に着くと原の小屋では早くも冬囲いの板を取り付け,小屋じまいの準備をしていた。まだ,紅葉のシーズンも始まったばかりだというのに,気が早いものだ。ちょうど昼時だったので檜枝岐小屋のオープンテラスでカレーを戴く。

80.jpg
【トチノキの色のグラデーション】

食事後は雲が行き来するのにつられ,カメラを持って周囲をうろうろする。こんなに賑わいのある見晴を見るのは今年もあと僅かだと思うとやはり寂しさが漂う。その後は東電小屋からヨッピ橋を経由して龍宮小屋に向かった。2週間前に訪れた時には,綺麗な黄色やオレンジ色に染まっていたヤマドリゼンマイはチリチリに縮れ,赤茶色に変色していた。
途中のベンチで荷物を下ろし,短い時間だが明日はできないかも知れない空撮を行った。これで,明日雨が降ったとしても心残りはない。 ハズだった・・・・。

91.jpg
【見晴付近で見られたツタウルシ】

2か月ぶりの龍宮小屋もかなりの賑わっていた。小屋周辺に設置されていたシカ柵撤去の担当者が複数泊まっていたからだ。急ぎ部屋に荷物を置き,ドローンの充電を始める。暫く部屋で横になって寛いでいたが,徐々に日が沈む時間が近づくにつれ,部屋から拠水林が紅く染まり出してきた。慌てて撮影機材を持って思わず小屋を飛び出した。

100.jpg
【檜枝岐小屋のオープンテラスで寛ぐ人たち】

新しくなった木道に三脚を立て,夕焼けを期待しながら静かに池塘の傍らで待っていると,上空にあった薄い雲が時間とともに紅く色付いてきた。しかし,最後の段階でその夕焼け雲を隠すような大きな雲が手前に現れ,その視界を遮った。よりによってこの時間に現れなくてもいいのに・・・。

110.jpg
【龍宮付近の夕暮れ】

小屋に戻って食事と風呂を済ませ,横になって携帯を操作していたら,携帯片手にいつの間にか眠り込んでしまった。睡魔には勝てずそのまま眠ってしまい,目が覚めたのは午前1時。外は曇り,もう星は見えないだろうと半ば諦めながらも外に出て確認をすると,オリオン座の他,秋から冬の星たちが煌々と輝いていた。撮影準備をして小屋周辺で星の撮影をする。何とか一度だけでも星の撮影ができて良かった。一時間程度,星の撮影をしてから部屋に戻り,朝まで休んだ。

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです。

120.jpg
【太陽が沈んだ後,見られた尾瀬ヶ原の秋の夕暮れ】
nice!(10)  コメント(2) 

色彩の競演【1】 [尾瀬沼]

11.jpg
【夕陽を浴びたナナカマドと燧ヶ岳】  

10月4日(月)(快晴)
コロナの新規罹患者が急速に減り,9月末をもって緊急事態宣言も解除された。さらに,尾瀬は紅葉のベストシーズンを迎えようとしていた。当然の如く気持ちは尾瀬に向かう。上陸が心配された大型の台風も大きな被害をもたらすこともなく,日本を掠めていった。その後は秋らしい晴天が数日続くようだ。

20.jpg
【透過光で見るとホオノキの黄葉もより一層輝く】

この時期になると尾瀬の紅葉の進み具合が気になる。所用で台風一過の秋晴れを落ち着かないまま2日間過ごし,4日からの入山となった。御池周辺のブナの紅葉にはまだ早いだろうと判断し,大清水から入山後,尾瀬沼から尾瀬ヶ原を歩くコースを選ぶ。
大清水に向かうバスの接続を考え,戸倉に車を置いて路線バス,タクシーを乗り継いで一ノ瀬に向かう。接続がうまくいき,あっという間に秋色に染まった一ノ瀬の森の中にいた。

40.jpg
【尾瀬沼の沼尻南西部の未踏の湿原と池塘。治右衛門池,タソガレ田代,かたわれ田代】

この時期のお気に入りのコースの一つ,一ノ瀬から三平峠への森を歩く。透過光越しに見るブナの葉はまだ緑色が残っているものの黄金色の光を放ち,眩しく輝く。さらに,周囲を見渡せば,ツタウルシ,オオカメノキ,ナナカマドなどの赤やオレンジ色の葉が所々に鏤められ,彩りを添えている。鮮やかかつ多彩で森全体が華やかさに満ちあふれている。全体的に見れば紅葉のピークには少し早い感じだが,樹木の種類によっても,個体差によっても見頃は異なるので,生きのいい紅葉を見るにはちょうど良い時期なのかも知れない。

50.jpg
【檜の突き出しの黄葉と輝く尾瀬沼】

岩清水のベンチで休んでいたらKさん,三平下に向かう途中でMさんと暫くぶりに遭遇し,談笑することができた。三平下では,尾瀬沼山荘の売店も久しぶりにオープンし,売店前のベンチにも人が溢れ,平日だというのに多くの人で賑わっていた。緊急事態宣言が解除された上,紅葉のベストシーズン,そしてこの好天である。皆,尾瀬に向かうこの日を待ち焦がれていたのだろう。

60.jpg
【尾瀬沼に沈む夕陽もこんな南に寄ってしまった】

混雑を避け,早稲の砂風のベンチに移動して,空撮をしていたところ,いきなりドクターヘリが直ぐ近くまで飛んできた。しかも,暫くそこでホバリングしていて,スピーカーで何か言っていたが,ヘリの音が五月蠅くて何を言っているのか聞き取れない。どうも,負傷者を輸送するのでそこを空けろと言うことらしい。飛ばしていたドローンを急いで回収,避難し,三平下で休憩していた人と成り行きを見守った。ヘリから降りてきた2人の隊員が,負傷者と関係者をロープを使ってヘリに乗せ,あっという間に飛び立った。その間,15分。その後には,ヘリの風圧で木が折れ,飛ばされた落ち葉が空しく吹き溜まっていた。

30.jpg
【暫くぶりに訪れた大清水平】

静寂が戻った三平下の一角でゆっくりと昼食を食べてから久しぶりに南岸道を歩いた。荒れ放題だった登山道もかなり修復され,歩きやすくなっていた。南岸道は,登山者も少なく,一部で沼の畔に立てることや燧ヶ岳の全容が見れるのがいい。途中から久しぶりに大清水平に向かう。登山道を塞いでいる倒木を避け,思い出を辿りながら山道を進むとぽっかりと青い空が広がる湿原に飛び出す。

80.jpg
【大江湿原の草紅葉とカンバの森の黄葉】

十年以上訪れていなかったこの湿原。「あぁ・・・」木道や二カ所あったベンチも朽ち果て,時の移ろいを感じさせる。そこに立ち,風の音に耳を澄ますと,あの頃の空気感や思い出が蘇ってくる。ここで過ごした時間はここに閉じ込められたままになっていた。長い時間,思い出に浸り時を過ごした後は,長蔵小屋に向かう。

70.jpg
【久しぶりに明かりが灯った「元長蔵小屋」】

この日の長蔵小屋は,平日にも関わらず満館になり,週末以上の賑わいを見せていた。小屋主の太郎さんに声をかけられ,囲炉裏の部屋を覗くと懐かしい紀子さんや佑さんがいて,談笑することができた。夕暮れ時には日差しも見れたが,思ったような夕焼けや星空には出会えなかったので,この夜はゆっくりと休んだ。

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです。
nice!(13)  コメント(2)