SSブログ

■草紅葉の季節[2] [尾瀬ケ原]

200.jpg
【広がる雲海に満ちあふれる朝の光】

 10名ほどの宿泊者が寝静まる龍宮小屋の周囲を真っ白な霧が覆う。小屋周辺が朝靄に覆われるのはいつものこと。必要な荷物だけを持って,小屋のWi-Fiに繋いで状況を確認すると,晴れの予報のままだがライブカメラは暗くて様子が分からない。仕方なく情報収集は諦めて,小屋を後にする。

210.jpg
【180度向きを変えると,雲海上には白い虹が広がる】

 真っ白な朝霧に覆われ鳥や虫の声も全くない静かな木道を辿ってヨッピ橋方面に向かう。木道周辺はすっかり仮払いされているため,靴やズボンが朝露でビショビショになってしまうことがないのはありがたい。いつもなら霧が晴れる時間帯になっても周囲の様子は一向に変わらない。今日は,霧が濃いのかも知れないと思い,状況が改善するのを待ちきれず,ドローンを上空に飛ばす。

230.jpg
【ヤマドリゼンマイ黄葉と白い虹】

 朝靄が立ちこめていても,いつもならほんの数秒で,朝靄の上にから真下に広がる朝靄の彼方に燧ヶ岳や至仏山を見ることが出来るのだが,今回はそうはいかない。いつもよりもはるかに長い時間をかけてやっと雲海の上に出ることができた。

240.jpg
【朝霧が晴れて,やっと初秋の朝が訪れた・・・】

上空は願い通りの青い空が広がり,雲海の彼方には尾瀬を取り囲む山々が聳えていた。雲海の上に日が射し込むと漂う雲が朝の光を受けて赤く染まる。荘厳な朝のドラマの始まりである。上空に行けば早い日の出となり,低空になるほど雲や周囲の山の遮られて日の出は遅くなるが,その分赤さは失われてしまうので,ちょうどいいタイミングだった。

245.jpg
【ヤマドリゼンマイの黄葉が進む尾瀬ヶ原】

 しかし,この時間帯は,雲海を撮影してしまうとそれほど変化がないので,30分ほど飛ばしてから撤収した。この日は,靄と言うよりは霧で,空気中を漂う水滴の粒も大きく,比べものにならないくらい濃かったので,暫く待ってもこの霧が晴れることはなさそうだったので,一旦小屋に戻って朝食を食べてから出直すことにした。こんなことなら,朝弁にしておくべきだったな・・・・。

250.jpg
【漸くヤマドリゼンマイも黄色く色付き始めました】

 急いで小屋に戻り,朝食を済ませて部屋を片付けて小屋を出るまで,この霧は晴れることはなかった。食事中に霧が晴れ,この日のクライマックスを見損なったら,絶対に悔いを残す結果となったと思うが,朝食が終わるまで何とか霧が晴れるのを待っていてくれたようで嬉しかった。あわてて食べたので消化不良気味だが,また同じ道を通ってヤマドリゼンマイのポイントに着く頃,上空を覆っていた霧が少しずつ晴れ,青い空が見え隠れする。そして,隙間から漏れた光が湿原を覆う朝霧に射し込み・・・ 白い虹が現れた。

252.jpg
【進む尾瀬ヶ原の草紅葉】

 黄色に染まったヤマドリゼンマイの群落の上に低い白い虹がアーチを架ける。時刻は7時30分を回り,太陽も高くなっていたため,その分,虹は低くなる。慌ただしく地上の様子を撮影してからドローンを上空に向かわせると,あっという間に霧が消えてしまった。雲も霧もないピーカンの空の下の湿原では少し物足りない。贅沢は言うまい・・・。このような完璧な条件で撮影できるのも中々ないことなので,じっくり空撮して再度,龍宮小屋に戻った。

255.jpg
【初秋の空を映すイモリ池】

 小屋では,朝の清掃が始まっていたが,この後は鳩待峠経由で帰るだけと決めていたので,小屋の常連のHさんと談笑したりてまったりと過ごす。10時ごろまでだらだらして帰路につく。まだまだ強い秋の日差しを受けて黄金色に輝く湿原を撮影をしながら,鳩待峠に着いたのは16時頃だった。

290.jpg
【ダケカンバも少しずつ色付き始めました】
nice!(14)  コメント(0) 

■草紅葉の季節[1] [尾瀬ケ原]

505.jpg
【ヤマドリゼンマイも日に日に黄色く色付いていきます】

□9月15日(木)晴れのちくもり
 例年,行われている尾瀬でのオフ会は3年連続で中止が決まった。コロナが流行の兆しを見せ始めた頃,まさかこんなに長引くとは全く予想できなかったことだが,健康上の懸念がある以上,無理に開催することも出来ないだろう。

510.jpg
【池塘はたくさんのヒツジグサで覆われ輝いていました・・・】

 しかし,そんな年でも時間と共にどんどん季節は進んでしまう。ヤマドリゼンマイなどの草紅葉も既に始まっているという,情報もたくさん飛び込んできて,尾瀬に向かう日を探したが,好天が長続きしない不安定な天候続きで,中々その日を決めかねていた。何とか2日間,雨の心配のいらない日があったので,山小屋の予約をした。この時期,本格的な紅葉シーズンを前にいくつかの山小屋は休館日となっているところも多いので注意も必要だ。

520.jpg
【池塘の周囲はまだヤマドリゼンマイの色付きが遅いようです】

 当初は,久しぶりに檜枝岐経由で入山を考えていたが,大事なものを忘れ,福島側に向かう理由がなくなったので,いつも通り,戸倉を経由して鳩待峠に向かう。平日だし,紅葉シーズン前でもあるので,鳩待峠は前回ほどの賑わいはなかった。猛威を振るっているコロナの第7波の影響もあるのかも知れない。

530.jpg
【秋の空を映す池塘とヤマドリゼンマイ】

 周囲の山々も夏の濃い緑から徐々にその色を変えつつある。あと一ヶ月もしないうちに華やかに彩られるこの地の様子を思い描く時,その華やかさに心躍らせると同時に,尾瀬のシーズンも残り少なくなったことが頭の片隅を掠め,ちょっと寂しくもなる。

890.jpg
【龍宮十字路の夕暮れ】

 峠の道を緑一色だった森が少しずつその色彩を変えていた。オオカメノキの赤い実と秋色に染まった葉も,秋の訪れをいち早く伝えてくれた。だんだん尾瀬ヶ原が近づくにつれ,アキノキリンソウの鮮やかな黄色や,ヤマトリカブト,エゾリンドウの涼しげな青が多くなった。山の鼻に着き,ふといつものベンチを見ると,新井先生が東電の方と話していた。ビジターセンターで財団の会議があるという。

 少し立ち話をしてから,見本園に向かう。見本園の木道脇には秋の風物詩となった木道修理用の資材が無造作にあちこちに置かれていた。ヘリも忙しそうに何度も行き来していたので,静けさを求めて上田代に向かった。

905.jpg
【夕食後,突然空が紫色に染まった・・・】

 時間と共に,上空をどんどんと雲が覆うようになり,燧ヶ岳や至仏山の山頂もなかなか姿を見せてくれなかった。しかし,ジリジリと照りつける日差しはまだ夏のそれであり,湿度も高く,少し歩くと汗ばんでしまう。時折吹き抜ける風も,日本に接近しつつある台風の影響なのか,妙に生暖かった。木道の間には,たくさんのエゾリンドウやミヤマアキノキリンソウ,サラシナショウマ,ウメバチソウなどが,尾瀬ヶ原に最後の彩りを添えていた。

910.jpg
【オオカメノキの実と紅葉】

 今回の一番の楽しみは,何と言ってもヤマドリゼンマイの黄葉である。芽吹きの頃も面白い被写体だが,緑から黄や赤に徐々に変化していく様子が秋を感じさせてくれる。しかし,今年の秋は気温の寒暖差が激しく,一度かなり気温が下がった時がある。その影響か,葉は緑色をしているもののその周囲が茶色に変色したり,チリチリに枯れているものが多く見られた。全体的に色もくすんでいたし,今ひとつ冴えない感じであった。ヤマウルシやナナカマドの紅葉も遅れているようである。

920.jpg
【ヤマトリカブト】

 それでも,紅葉の進み具合は,場所によってかなり違いが見られた。ドローンを飛ばして上空から見てみると,緑,黄,そしてオレンジ色に染まる華やかな湿原のグラデーションが初秋を感じさせてくれた。機械のセンサーで見る紅葉は,人間の目で見るよりもはっきりと季節の移ろいを捉えていた。

 早めに今日の宿である龍宮小屋にチェックインして,小屋主さんや常連さんと談笑した。夕食まで少し時間があったので,カメラを持ってベンチまで移動する。だんだんと雲が多くなってしまい,綺麗な夕焼けは望めそうもなく,諦めて小屋に戻り,食事を済ませる。ふと見ると,空が紫色に染まってきたので慌てて小屋の外に飛び出して数枚撮影し終わると,何事もなかったかのように灰色の空に戻ってしまった。

 風呂に入り,のんびりしていると,小屋の周辺は夜霧に覆われ何も見えなくなった。月夜の白虹を撮るチャンスかなとも思って期待したが,天気予報通り雲が辺りを支配し,明け方まで月は,ほとんど姿を見せてくれなかった・・・ と思う。(^^ゞ

930.jpg
【今回たくさん見られたエゾリンドウ】
*空撮にあたっては,DIPS・FISS・機体登録,関係機関への連絡・調整済みです。

nice!(10)  コメント(0)