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本格的な春へのプロローグ【2】 [尾瀬ケ原]

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【モルゲンロートの至仏山と霜の降りた尾瀬ヶ原】

5月12日(晴れのち曇り)
寝起きの時間が普段とまるっきり違っているため体が戸惑っているのか,寝すぎたせいなのか3時30分には目が覚めた。撮影にはちょうどいい時間だ。肝心の天気も悪くない。薄明かりの中,ヘッドライトをつけて出発準備を整える。寝静まった燧小屋を出ぬけ,龍宮十字路に向かう。

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【その光は至仏山の雪を染めながらゆっくりと降りてきた】

振り返ると燧ヶ岳の背景の雲が淡いピンク色に染まっている。その光は徐々に空全体へと広がり,やがて尾瀬全体を優しく包む。東の空に大きめの雲があったので,モルゲンロートに染まる赤い至仏山は見れないかなと思いながらも少し待つと,山頂付近が赤く染まり出した。ありがたい。この雰囲気を記録に留めたくてドローンを飛ばす。朝靄はないが,今朝はよく冷えたおかげでたっぷりと霜が降り,湿原や周囲を取り囲む樹木が真っ白だ。その白いキャンバスを朝の光がうっすらと茜色に染め上げる。

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【朝一番の光に染まる遅霜の尾瀬ヶ原】

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【朝日を受けて輝く樹氷】

上空からではやや分かりにくかったが,遅霜で薄化粧した早春の尾瀬ヶ原をなんとか空撮することができた。地上の様子もじっくりと撮りたかったが,同時には撮影出来ないのがもどかしい・・・。ドローンを戻し,霜で滑りやすくなった木道を転倒しないよう慎重に移動する。

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【霜で真っ白になった湿原が朝日を浴びてあちこちできらきらと輝く】

やがて湿原にも朝の光が満ち溢れ,湿原全体を覆う薄いベールのようなしっとりとした空気を朝の光が眩しく照らす。湿原に目をやると,雪が溶けやっと現れた枯れ草も灌木も真っ白な霜を身に纏い,僅かな空気の流れにキラキラと輝きながら揺れている。神秘的な光景を目の当たりにして足を止めずにはいられない。この貴重な一瞬,空気感を記録に残そうと夢中で何枚もシャッターを切る。じっくり撮影したいが,空撮もしたくて後ろ髪を引かれながら龍宮十字路へ。空撮をするにはやはり位置的にここがベストポジションだ。

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【咲き始めたミズバショウも霜の洗礼を受けて真っ白だ】

ふと気付くと時間とともに池塘周りを白く縁取っていた朝の霜も徐々に溶け,いつもの風景に戻ってくる。遅霜がたっぷり降りた湿原,モルゲンロートの尾瀬ヶ原,雪解け水をたっぷりと湛えた池塘・・・ どれも魅力的だが,薄い雲が上空を覆い,湿原の輝きが失せる時間帯もある。その時間帯は光を待って撮影を再開するなど時間的なロスも多い。時間とともに条件は悪くなる一方なので気持ちは焦るが,撮影はなかなか思うように進まない。

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【上空から見た上田代。湿原の雪は本当に少なくなってしまった・・・】

この時期,この時間帯は何処をどのように撮影するのが良いか,空撮に関しては特に未知数で試行錯誤の連続だ。思うような画像が1回で撮れた試しはなく,何度も同じような撮影を繰り返すばかりである。とりあえず,バッテリーを1本残して空撮を終え,カメラを抱えて湿原を歩き回る。既に霜はほとんど溶け,山かげにその名残を残すのみであるが,その霜の中にたくさんの小さなミズバショウが寒そうに健気に咲いていた。

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【下の大堀の定番ポイントのミズバショウもかなり咲き出した】

霜もほとんど消えてしまったので,のんびりと朝食をとってから,長沢周辺だけではなく,下の大堀,ヨシッポリ田代などミズバショウが早くから群落を作る場所にも足を伸ばした。どこも既にミズバショウが小さいけれどたくさんの花を咲かせ,見頃を迎えようとしていた。雪解けだけでなく,花の開花も例年よりも確実に早まっている。
その後は,行き交う人も少ない尾瀬ヶ原を温かい日差しに照らされ,梅雨入り前の貴重な晴天の一日尾瀬ヶ原の散策を楽しみながら,ゆっくりと山の鼻経由で鳩待峠に向かった。

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【ヨシッポリ田代にたくさん咲いたミズバショウが迎えてくれた】

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【帰り道ではイワナシも咲いていました。こんな時期に咲くなんて・・・】

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです

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本格的な春へのプロローグ【1】 [尾瀬ケ原]

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【下の大堀,定番ポイントでのミズバショウと”燧ヶ岳”】

5月11日(曇り時々晴れ)
山小屋でも様々な対応を強いられながらも営業を始めた。尾瀬の山小屋から感染者を出すわけにはいかないが,自粛ばかりでは山小屋の存在自体が危ぶまれる事態になりかねない。栃木県は緊急事態宣言もまん延防止等重点措置の対象からも外れているので,自分でもコロナ対策には十分留意して出かけることにした。

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【終わりかけていた上田代の尾瀬ヶ原湖,それでも池塘の水量は豊富】

前回の尾瀬から2週間。既に尾瀬ヶ原の雪は消え,木道はほとんど出ているという。尾瀬ヶ原・上田代周辺の雪解けが進むと気になるのが短い期間現れる「尾瀬ヶ原湖」であるが,それさえも既に見頃は過ぎたようだ。前回の残雪の状態から,見頃は一週間~10日後位かと思っていたが,天候を見極めているうちに見頃を逃してしまったようだ。それでも,雪解け水溢れる尾瀬ヶ原をのんびりと歩きたい・・・。

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【残雪がほとんど消えた尾瀬ヶ原】

天気の回復が遅れ,朝のうちは天気も良くないようなので,ゆっくり休んでから出発。日光を越え,片品村に着いてもどんよりとした雲が上空を支配したままだ。
天気が良くなる気配もなかったので帰ろうかとも思ったが,せっかく来たのだからと気を取り直して鳩待峠へ。

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【緑の湿原へと生まれ変わるにはそんなに時間はかからない・・・】

至仏山が登山禁止期間に入る前では考えられないことだが,9時を過ぎているというのに鳩待峠駐車場は満車にならないばかりか,10台程度の車が止まっているだけだった。人の往来もほとんどなく,スキー・スノボの登山者で賑わっていた前回からは想像できない静けさだ。

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【林内の根明けも徐々に大きくなり,残雪もかなり減少した】

山の鼻に向かう道の雪も鳩待峠から下るに従って徐々に少なくなり,山の鼻に着く頃にはネットの情報通り,木道の雪はほとんど消えていた。山小屋周辺に残った雪を除雪するスタッフの声が辺りに響く。閑散とした山の鼻は静かに時が流れていた。ミズバショウシーズン前のエアポケットのような時期ではあるが,やはりコロナの影響は大きいと言わざるを得ない。

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【水バショウ。雪解け水に浸かって気持ちよさそうです・・・】

流れゆく雲の隙間から時折陽は射すが,長時間分厚い雲が上空を覆う。さらに,至仏山や燧ヶ岳の山頂が雲に隠れて見えないことも今ひとつ気持ちが盛り上がらない理由だ。こんな時は空撮しても面白くないので,上田代の逆さ燧のベンチに重い荷物を下ろし,昼食をとることにした。温かなしっとりとした空気に包まれ,遠くで響く鳥の声に耳を傾け,風に乗って運ばれてくる雪解け後の湿原の空気を吸いながらのんびりと昼食をとっていると徐々に気持ちも安らぐ。やはり,来て良かった。

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【ワタスゲの花もあちこちで見かけました】

そんな気持ちを映し出すかのように,空も急速に明るくなってくる。やっとドローンが飛ばせるな・・・念願の空撮を済ませた後は中田代に向かう。下の大堀の撮影ポイントは,小さめのミズバショウがたくさん咲いていた。少雪だった上に気温が高く,雪解けが早かった分,今年も季節の移ろいは前倒しだ。いい具合に雲も減ってきたので,ここで本日2回目の空撮。絵に描いたような雲を背景に,定番写真の反対側にある「燧とミズバショウの群落」の写真を撮影。ドローンならではの1枚である。

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【木道の間に守られるように咲くリュウキンカ】

一時は回復傾向であった天候も,また雲が優勢となったため早めに今日の宿「燧小屋」にチェックインし,バッテリーの充電等をしているとポツポツと雨が落ちてきた。早めに小屋に入って正解だった。本日の宿泊者は自分を含め5名。午後5時30分に早々と夕食を済ませ,入浴して部屋で寛いでいると空が急速に色づいてきた。久しぶりに尾瀬で見る夕焼けである。

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【六兵衛掘のザゼンソウも顔を出していました】

カメラを抱えて弥四郎小屋の先まで急ぐ。夕焼けだけでは絵にならないし,池塘とかもないしなぁと四苦八苦しながら撮影を済ませる。すると,傍らでドローンを飛ばす2人が。聞くと「シカの食害調査」だという。この時間帯に? FISSに登録してあったかなぁ・・・
いつしか至仏山や燧ヶ岳の上空にあった雲はほとんどとれ,澄み渡った空が一面に広がっていた。明日の朝は冷えそうだ・・・。小屋に戻って早々に休むことにした。

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【小屋で寛いでいたら空が急に色づいてきました】

*空撮にあたってはDIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済です。
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雪解け進む尾瀬ヶ原【2】 [尾瀬ケ原]

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【朝陽に染まる残雪の上田代】

 自分以外に宿泊者もなく,見晴地区でもう一つ開いている檜枝岐小屋にも数名の宿泊客しかいないため,静寂そのものだった尾瀬。春スキー客で賑わう山の鼻地区とは違い,尾瀬を満喫するには十分すぎるくらいだった。下田代の雪解けは尾瀬ケ原の中では比較的遅いほうであるため,この周辺では被写体探しに苦労するので朝弁当を頼んでおいて早めに小屋を後にした。雲一つない青紫の空に浮かぶ大きな月を見ながら中田代に向かう。

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【モルゲンロートに輝く至仏山】

 ライトこそいらない明るさだが,誰一人歩いていないし,鳥のさえずりが聞こえるようになるまでにはまだ少し早い季節である。聞こえるのは,堅い残雪を踏みしめる自分の足音だけだ。放射冷却で冷え切った湿原の雪は良く締まり,アイゼンがよく効く。

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【朝の光がやっと自分のいるところまで届きました】

 真ん丸の月が低くなるにつれ,ビーナスの帯がゆっくりと降りてきて,至仏山頂に赤い火が灯る。山頂に点火された火はみるみると山裾に向かってその範囲を広げる。気持ちも焦り,急ぎ足になるがなかなか良さそうな場所が見つからない。そうこうしているうちに朝の光が周囲を包み込む。ほどよい場所を見つけて,慌ただしく荷物を下ろして撮影準備に取りかかり,待ちかねたドローンを離陸させた。

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【上田代上空から見る日の出】

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【拠水林の中にも朝の光が届きます】

 上空から見る朝陽に染まる残雪の尾瀬ヶ原。今年は明らかに例年よりも雪解けは早く,池塘や雪原も多彩な表情を見せている。特に池塘はその水温の違いが影響しているのか溶け方も様々だ。単に真っ白な雪原だとやや面白みに欠けるが,これくらい変化があると楽しい。ついつい興味が先走り,動画を撮影していることを忘れて操作してしまうことも。

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【残雪が溶け芽吹きが始まったばかりですが遅霜で真っ白に】

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【やはりまだ早春。冬がちょっぴり同居しているんですね】

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【早めに顔を出したミズバショウの苞も茶色に変わってしまいそうです】

 陽が昇ると,地上でもあちこちでドラマが繰り広げられている。放射冷却で相当冷え込み気温は-5℃。春を待ちかねて早々に地上に現したミズバショウの花や灌木を縁取る霜が朝陽を受けてきらきらと輝き出す。ドローンでの撮影をしながらもこうした宝石のように煌めく一瞬も記録しておきたくて,コンデジでの撮影も並行して行う。慌ただしく時が過ぎ,日差しに暖かさが戻り,何事もなかったかのようにいつもの光景に戻っていく。

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【日が高くなると急激に温度が上がり,雪解けも進みます】

 撮影も一段落してから,昨日は人影もなかった龍宮小屋に立ち寄る。入り口の戸を開けると中から懐かしい顔が出迎えてくれた。小屋主さんは所用で今日上山してくるそうだ。帰る途中,何処かで会えるかも・・・

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【上田代の雪解けも急ピッチで進んでいます】

龍宮小屋を後にして山の鼻に向かうが誰一人とも会うこともなかった。本当に人がいないのか,広い尾瀬ヶ原のあちこちに分散しているのか,時間が早いからなのか? とにかくこの時期の入山者の目当ては春スキーと百名山の景鶴山登山の人が大多数なのかも知れない。

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【下の池塘は,微生物のミドリムシのようにも見えます】

 ゆっくり残雪の反射する光溢れる,雲一つない尾瀬ヶ原を散策したり,ドローンでの撮影をしながら山の鼻に向かっていたら声をかける人がいた。誰だろうと思っていたら龍宮小屋の小屋主さんだった。1年ぶりの再会だったので,その場で暫く談笑して別れた。今年は限定的ながらも営業してくれるのはありがたい。
最後はバテバテになりながら鳩待峠に着く。西日に銀色に輝く至仏山の雪面には,スキーヤーのシュプールが多数刻まれていた。

*空撮にあたっては,DIPS・FISS登録,関係機関への連絡・調整済みです。

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【至仏山に刻まれたシュプール。これも春の風物詩だろう】
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